井上まさじ略歴など

【井上まさじ 略歴】
1955年 愛知県豊川市生まれ
1986年ー1989年  個展 (LABORATORY/札幌)
1990〜2022 個展・新作発表 (ギャラリーミヤシタ 札幌)
(2022年、ギャラリーミヤシタは営業を終了しました。)
1996年 個展 (GALERIA KUCHINA SBWA/ポーランド・ワルシャワ)
「北海道・今日の美術 語る身体・10人のアプローチ」
(北海道近代美術館/札幌)
1998年 「知覚される身体性」 (芸術の森美術館/札幌)
2006年 個展「画層の堆積」 (マキイマサルファインアーツ/東京)
2008年 個展 (ギャラリーエクリュの森/静岡・三島+土日画廊/東京・中野)
2009年〜12年、2014~15年 個展 (土日画廊)
2014年 新収蔵品展 (北海道立近代美術館/札幌)
2016年冬〜17年春 北海道立近代美術館企画「ワンダー☆ミュージアム2017 キャッチ・ザ・カラーズ」
学校連携事業[ぬって けずって 自分色!]講師。
小学生164名の作品は、井上作品とともに美術館に展示された。
2018年 個展 (砂沢ビッキ記念館/音威子府・筬島)
2019年 個展 (GALLERY HANA SHIMOKITAZAWA/下北沢/東京)
2023年 個展(土日画廊)
●土日画廊では常に作品をご覧いただけます。(要電話03-5343-1842)
パブリックコレクション
・手稲稲穂整形外科病院/札幌
・NTTユーネットビル/札幌
・苫小牧市立病院/苫小牧
・北海道立近代美術館/札幌
・名古屋市立美術館/名古屋

自分の作品を自分の言葉によって説明する事は、それ事態がある矛盾であると思っています。それは、私自身が、言葉によってリアルに伝えられないもどかしさを絵具にたくして絵画という方法で表現しているということだと思います。それでは絵画なら充分に伝わるかと言えば、これも又、充分とは言えません。しかし、言葉では表現しずらいことを表現するという意味において、自分には絵具が一番自由なのだと思います。
今の絵画のスタイルも、理論的に考えてできた訳ではなく、毎日の自由な絵具遊びの中から悩み、苦しみ、発見し、それを楽しむ。そんなくり返しと偶然の積みかさねの中から自然に生まれてきたものです。では私はいったい何を伝えたいのか?といいますと、それは、生命の根源である宇宙をも含めた自然と、その尊さ、広大さ、繊細さ、そして美しさであり、それらに出会った時の自身の感動だと思います。したがって、色彩の選択も考えながら使っている訳ではなく、自然の四季の中で、自分の心の中に蓄積しているささやかな感動をそまま色彩として呼吸するようにはき出しているものです。
私が今、暮らしている北海道という土地はとても美しい自然につつまれています。冬の真っ白い雪原に射し込む光。春のやわらかい光の中でいっせいに顔を出す草花達。夏のぬける様な空。色濃い緑の山々。秋の燃えるような紅葉と澄んだ空に広がる夕陽。そして又、真っ白な雪の世界へと戻ってゆきます。そんなくり返しの時間の中での私自身の心の反応の蓄積が、私の絵画なのだと思います。
自然はとても広大で、美しく繊細で、時としてとても厳しく、そして淡々と生と死をくり返します。人間の肉体は自然そのものです。その事を自身の心で受け入れながら、ゆっくりと生きてゆきたいと思っています。
(1995年9月13日 井上まさじ 記)
※上記の文は、1996年ポーランド・ワルシャワで開催された個展に際し記された井上さんのメッセージです。翻訳されることを前提になるべく訳し易い言葉を選んで表現されている、とのことです。

【作品 「白から白へ」2011】ー名古屋市立美術館収蔵
12ヶ月それぞれの色彩をあらわしています。12点の作品のうちの10点。
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井上まさじさんは札幌の郊外にアトリエを構え制作しています。愛知県出身の井上さんがわざわざ北海道まで行き、制作の場を持つに至るまでには紆余曲折がありこの紙面では説明を省くとして、結果、大いなる自然の中に描くことのテーマを見出しました。
井上さんが表現の対象としていることは単純に言ってしまえば自然の営みの根源的なところ自然の秩序を理解し近づくことです。自然の秩序とは、四季折々の気候の変化とか植物の営みや自然界全体の物理的な現象の規則性ということだと理解しています。
このような壮大なテーマを平面で表現する為に試行錯誤の末に独自の技法を生み出しました。偶然性と制作体験の中の記憶に支えられ、実験と発見を繰り返す忍耐は制作上の基本的な姿勢で、制作しながら対象への理解を深めようとしています。 作品は大雑把にペンの仕事とタブローの仕事と2種類に分けることができます。
ペンの仕事では点・小さい丸・ラインをそれぞれフリーハンドで画面一杯に埋めつくします。一日の中で時間を決めて毎日机に向い、数日あるいは数ヶ月を要して一つの作品を描きます。考え方によっては日記のようなもので、日々の体調や気候に左右されることでしょう。画面は非常に静謐ではありますが、日々の微妙な変化が画面に揺らぎをもたらします。フリーハンドで描くこの単純な動きあるいは呼吸と言っても良いかも知れませんが、それ自体地球の営みにリンクしているように、井上さんの身体性を感じます。
タブローはボードにアクリル絵具を重ねてはサンドペーパーで削るということをくり返し、下からでて来る絵具の層で成り立たせています。それはあたかも何億年かけて形成される地層を美術の中で再現したいのではないかと想像します。タブローにおいてはかなり具体的な自然界の要素である空気感や温度、水分あるいは鉱物質などのイメージ現れています。
ペンの仕事と絵具の仕事とでは一見すると双方が全く関わりのない内容に感じられますが制作方法において作品中になるべく感情移入を避け、あくまでも自身の身体を頼りに自然に寄り添うという姿勢において井上さんの中で共通している仕事です。
最後に、タブローの仕事の大きな特徴は、絵具のイメージが決定された後、アクリル系の透明メディウムで1~2mmの高さになるまで画面上にローラーをころがし、繊毛のようなもので画面全体を覆います。このことで画面に当たる光線の出入りが規則性を持ち、色彩が見る人の網膜に固有色をよりはっきりと認識し易くしたり光の移動とともに色彩が揺らいでみえたりします。このようなことも、永い制作経験の中から気づいていったことです。