田中毅 石彫展 -石の歌声が聞こえる-

2016年7月14日(木)〜7月31日(日)
OPEN 木曜日〜日曜日 12時〜19時

「唄おう」34x41x15cm

「唄おう」34x41x15cm

石彫34点と版画を展示。
東京でもまた旅先の田舎町でも、ふらふらと歩いていて思いがけずお地蔵様や道祖神に出会う事があります。多くの場合それらはには頭に赤い帽子がのせられ、首にはよだれけが掛かっている。周囲は掃除され瑞々しい花が生けられ、清潔でいかにもご近所から大切にされているという風情のものが多いです。
そして私が目にして来たものはほとんどが石で彫られたもの。おそらくは、美術としての「彫刻」という概念が民間にあまりなかった時代、神社の狛犬や灯籠や磨崖仏などを彫る石工たちによって、心からの祈りをこめて彫られたものだろうと想像するのです。
さて、田中さんにおいて、口癖のように言葉にするのは、自分は路傍の彫刻家になりたい。ほら、分かれ道なんかによくあるでしょ、お地蔵さんや道祖神みたいな・・・。道行く人々には気づかれたり無視されたり、たまに花なんか手向けてくれる人がいたりして、自分の作品がそんな存在になれればいいなー、と。
田中さんの作品は植物がよく似合います。晴天の青空の下も良いが雨の中の黒御影石の濡れてしっとりとした黒もまた美しく、作品たちはより生き生きと唄い、語らい、鎮座して居るように感じる。そこにアオガエルなんかがヒョンと乗ってくれればもう何も言う事はありません。植物ばかりではなく、虫や猫や人も、田中作品にはよく似合うのです。
田中さんのこの純朴とも言える心の欲求は、おそらく高校生まで暮らした宮崎/青島で育まれた感受性によるのだと思います。近くの海に潜り、海藻や貝を拾いおやつにして食べたという。今でも郷里に帰ると海で収穫した海藻の味噌漬けを作ってもってきてくれる。基本は自然児なのです。
海からのイメージで生まれる架空の生命体、鳥や獣たち、作品の題材は多岐にわたりますが、共通していえることは作品全体がなだらかな柔らかい起伏で充たされているということで、田中作品の特徴であり持ち味です。穏やかな気分を醸し出しているこの特質は田中さんの心身両面に宿る感覚で、他者が真似ようとしても真似られない独特のものです。